人生にエンドロールを

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拡張された世界の中で、村人Aに魂が宿る|ARスタートアップの振り返り

数ヶ月前、高校生向けのキャリア相談をしている友人に聞いたのですが、今の高校生の悩みは「やりたいことをやって生きるという言葉が逆にプレッシャー」とのこと。とても示唆深い話だと感じつつ、特に何か有用なコメントを残すこともなくその場は終わってしまいました。

僕はちょうど一年前の今日、AR × ゲームのスタートアップを立ち上げました。

そこでは、誰もが主人公になれるエンターテイメントの形を模索していて、逆説的になぜ人は主人公でなくなるのかを考えています。会社として価値を届けたいのは、今生きる世界に自分の居場所を見いた出せないような人で、まさにその悩みを打ち明けてくれた高校生のことだ感じました。

 

この記事はAR Advent Calendar 2018 - Adventarの12日目です。

 

何者でもない自分への目覚め

人一倍の才能と熱意を持ち、誰よりも真っ直ぐに努力を繰り返した主人公。そして、実は血筋として圧倒的な力を持っていることが後から発覚する。そんな漫画が流行したと思えば、次は才能を持たない凡人が成り上がる物語が注目を浴びています。

才能がないなら圧倒的な努力を。流行とは恐ろしいもので、小さな共感に始まり、連鎖の果てに世の中的な是すらも決めていきます。

自分は天才ではないことを自覚し、かといって誰よりも努力をするほどの熱量も持たぬこと認めてしまったのはいつ頃だったでしょうか。

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主人公である子供たちと村人Aである大人たち

子供の頃の夢はパイロットであり、スポーツ選手、はたまた転じてYoutuber。秘密基地を作り、ヒーローに姿を変え、地元を救う防衛軍を指揮する。これはまあデフォルメしていますが、遠からず「格好いい」に真っ直ぐな時間を過ごしてきた方が大半でしょう。

しかし、学力テスト、運動会、バレンタインなどの行事で自分の相対位置が鮮明になっていくにつれて「ああ、こんなものか」のリフレインが始まります。そのまま大人になってしまった私たちは、理不尽も不承知も受け入れる器を磨き、繰り返される言葉を「まあ、これでいっか」にすり替えていきました。

そこには主人公としての自分の姿はなく、まるで同じ言葉を繰り返し続ける村人Aかのように、日々非連続的に起こっているはずの全ての出来事を無視して「退屈さ」を自分に押し当ててしまうのは、誰にとっても不本意な結末であることに変わりはないでしょう。

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記号化され続ける認知の構図

なぜこんなことが起きるのかというと、人は細分化された膨大の情報を「記号」として捉えることにより処理しようとするからです。通勤路の風景も、友人の性格も、全てを個別化して考えることはできないから、ざっくりと記号にして抽象的に認識することでどうにか処理しようとします。そして記号化の最たる現象が「自分自身の記号化」です。

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これが自分らしさなのかとか、心の底では何をやりたいのかを考え出すと頭が痛いから、僕たちは考えなくても済むように、ざっくりと自分自身をこんなものだと思い込んでいきます。

記号化の裏には何かしらの共通のコンテキストが存在していて、そこで是とされる尺度に基づいて物事を共通化していきます。例えば、「学力の高い人が優秀な人である」といったように。

だとすれば、自分が相対優位にあり主役になれるコンテキストを見つけ出すことこそが、自分が主人公である世界の入り口なのではないかと僕は思うのです。

 

拡張された世界の中の、村人Aのセレンディピティ

ARゲームとして世界を拡張するということは、そこに新しいコンテキストを作り出すということでもあります。世界を謎解きの舞台に変えれば、見慣れた景色の一つ一つの粒が意味を持つように見えてくるし、友人と連携してミッションを攻略すれば、意外と自分が人を引っ張るタイプであることにも気付きます。これは新しい尺度を作ることによる「記号化」からの脱却です。

記号化されていた状態から生まれる新たな発見がユーザーにとってはセレンディピティであっても、それを「ARで複数の世界軸を作る」という行為を以って計画的に引き起こすことで、大人たちも主人公になれるエンターテイメントを創りたいのです。

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アリババグループのジャック・マーは、「自分は馬鹿だから起業するしかなかった」と語ります。謙遜であるにしても、世間の尺度の中でどう上に登るかではなく、自分が活躍できる舞台に身を置く場所を変えるという発想が、村人Aが主人公に姿を変える瞬間を生み出すのだと信じています。

ARエンタメが人の生き方を再定義するという確信

この「大多数の人村人Aになりがち現象」の根本的な問題は、画一化された是を持つことが社会的には合理的であるという結論をつけざるをえないことにあります。

だから人に新しい世界を提示するのは、小説であり、漫画であり、ゲームでありました。これまでもゲームエンターテイメントは、プレイヤーに新しい世界を届けてきましたが、これにも致命的な欠陥があると考えています。それが、現実とゲーム世界の分断です。ゲームで活躍することの現実への影響範囲が極めて小さいのです。既存のゲームでは、あくまでも「ゲームの中では主人公」の域を出ないのです。

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だから僕たちはあくまでも現実に根ざした上で世界をゲーム空間に包み込みます。普段目にしている場所で、普段接する友人と取り組むからこそ、村人Aに魂が宿るのだというのが私たちの信念です。

正直なところ、会社としてはエンターテイメント領域以外のことにも手を出そうとして、何かともやもやした気持ちを抱えていました。不安定だからこそ信念が試される年だったと思います。

それでもやっぱり僕たちが創りたいのは主人公になれるような世界で、価値を届けたいのはその高校生のような子なのです。

この一年でARの力で世界中をゲームに包み込むことの難しさを痛感しました。だから来年は、小さな場所から、それが部屋の中だけでも、特定の街の中でも、少しずつ僕たちの手が届く範囲を増やしていこうと色々仕込んでおります。

きっとパイロットも村人Aだから

自分より優れている人が輝いて見えてしまう一方で、当の本人は葛藤やコンプレックスをいただいていることは往々にしてあります。誰しもがそんな「普通」な側面を持っているのだから、普通であることを憂う必要は決してありません。

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最近の高校生の悩みを聞いた時に何もいうことができなかった僕ですが、もし今後そのような相談を持ちかけられることがあれば「この世界では普通な君が主人公で居られる世界があるからそこを探そう。」と極めて楽観的なアドバイスを送ることができる気がします。そんな世界を僕たちが作ろうとしているのですから。

 

かくいう僕は創業1年目の難しさを目の当たりにして、手と頭だけは止めぬように忙殺されております。「最近勢いでてきたんじゃない!」という周囲の悪意なきプレッシャーによって自分を見失わないように、泥臭く、強かに、そして自分の心が踊る世界の中心に身を置いて、2期目も精進して参りますので、引き続きよろしくお願いします!

 

 

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