人生にエンドロールを

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UIUXの制約を受け入れてユーザーと向き合うことで、スマホAR体験はもっと豊かになる

スマホARのUIUXに関しては、「まだ最適解が出てない」というのがAR開発者の総意だと思います。 

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スマホを通して提供できるAR体験が開発者の考える「ARらしさ」に遠く及ばないことは事実であり、理想と現実のギャップを新たなテクノロジーによって埋めようとする動きが盛り上がっています。同時に僕はそれと同じくらい、現段階の制約を受け止めアイデアによって解消しようとする働きかけも重要だと考えています。

今回は、弊社がエンタメの会社という立場からユーザーテストを繰り返して考えたスマホARのUIUXについてをまとめます。全く新しい概念を提唱しているわけではないのですが、本記事を通して「ユーザーにとって良いものは意外とシンプルかもしれない」ということをお伝えできればと思います。

 

ARKit2.0が可能にしたAR体験

物理的な現実世界の中に仮想敵な物体を「存在」させることがAR技術の完成であると僕は解釈しています。その点では、精度面での実用性の低さはまだあるものの、かなりのことがなんとなく出来るようになってきているように感じます。

ここでは、ARKit2.0までで実装可能になった主要機能は下記のものです。

・特徴点の検出による垂直・水平面の判定
・空間への保存
マルチプレイヤーでの共有
・3Dオブジェクトの検出とトラッキング

その他にも 環境マッピングやスケールの検出など、フォトリアルの追求も進んでいます。

上述している機能に関しては本記事の本旨ではないため解説を割愛しますが、下記の記事が大変参考になるため、必要であればご参照ください。

 

では、開発者を苦しめるものは何か

上述したように、ARらしさを追求するための多くの機能がすでに存在しています。(精度や処理速度によって実用性に欠ける側面はありますが)それでも優れたスマホARアプリが出てこないのには、開発者にとって以下のような制約が越えるべき壁として立ちはだかっているからだと考えています。

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スマホというフレームの制約

コンテンツがいかに優れていても、スマホの向こうにしか拡張された世界は広がっていません。デベロッパーは実際に目の前に広がっている空間すべてを使いたい一方で、ユーザーは極端に狭い視野でそれを体験することになります。

操作方法の制約

ARによってディスプレイ越しの世界は立体的な広がりを見せていますが、オブジェクトに干渉する際に私たちが触れなければいけないのは平面的なタッチパネルです。2m先にあるリンゴを手に取りたいと思った時に、ユーザーは物理的に歩み寄るべきかどうか、または長押しでリンゴを持ち上げられるかどうかは非常に悩ましい問題です。

ユーザーの周辺環境の制約

ただそこにオブジェクトを出すだけではなく、目の当たりにしている現実とのコンテキストを共有することでARの真価は発揮されます。ある程度どこでもできる体験を作ればARらしさを損ない、かといって渋谷のあらゆる場所にデベロッパーがコンテンツを設置していくというのも現実的に考えると不可能です。

 

スマホARアプリの課題感に関しては下記の記事でも詳しく取り上げられています。

  

制約を越えなくてもユーザーに届けられるものがある

しかし、これらの制約を越えることだけがスマホARのUIUXの発明ではないように思います。弊社は現状の技術によって再現できるARらしさにある程度割り切った姿勢を持った上で、開発者が納得しないクオリティであってもユーザーに当てて反応を確認するように心がけています。

そうすると不思議なことに、開発者にとって大事であった部分がユーザーにとっては気にならなかったり、想定外の楽しみ方をされることに気付きます。

弊社がいくつかのユーザーテストを通して得た最大の学びは

・身体感覚のある操作性
・リアルなコミュニケーション
・ユーザー自身の妄想の具現化

が、ユーザーのAR体験を豊かにするということです。

 

身体感覚のある操作性を強調した企画設計を

ユーザーはARオブジェクトヘ干渉する際に、これまでのタッチパネル操作の作法を踏襲しました。ピンチやタップ、フリックなどです。しかし極めてリアルなARオブジェクトを操作しているため多少のストレスが残ってしまいます。逆に近寄ってメモを読んでみるなどといった身体感覚の伴う操作がユーザーにとって一番面白さを感じる部分でした。

だから私たちは、そもそもタッチパネルを使わない、身体性を強調した操作も模索しています。例えば、音声操作や、カメラ照準による操作(スマホから出るライトをオバケに向けるような体験)、もしくは操作を完全に捨て見ることに特化したコンテンツなどです。

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ユーザー自身が妄想を具現化する行為を遊びに

デベロッパーが世界中のコンテキストを拾ってARオブジェクトを配置することは不可能なのだから、ユーザー自身にそのアクションを起こさせる設計をすると考えるとどうでしょう。

例えば、ARビデオ通話のGRAFFITYさんのようにユーザーがアクションを起こすこと自体に面白みを持たせることによってコストを抑えつつその場所ならではのAR体験を作り出すことができます。

水辺に船を浮かべたり木の枝に妖精を載せてみたりするのは、デベロッパーではなくユーザーの役割と考えると、コストを抑えつつ現実のコンテキストをきちんと保有したAR体験が加速すると同時に、自分自身の妄想を具現化していくという新しい遊び方の発明にも繋がります。

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ARを通して生まれたリアルなコミュニケーションをコアな価値に

まだARオブジェクトがマルチプレイヤーによって共有できなかった頃、同じ場所で同時に二人のユーザーに、ARで出力した3D謎解きゲームをやってもらったことがありました。すると二人は、勝手に競争をはじめ、また同じ空間をその場で共有していると錯誤しました。

ARはリアルな場所やモノに根付く分、コミュニケーションのハブになります。これは、これまでの広く希薄になりすぎてしまった体験を、温かみのあるリアルなモノに回帰させる力があると感じました。ARの品質よりも、いかに交流を生み出すかといった設計に最大の価値を置くことで、ユーザーが触れるには十分なコンテンツが仕上がると僕は確信しています。

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ユーザーが求めるAR体験は意外とシンプルなものかもしれない

エンターテイメントは常にあらゆる制約を遊びに変えてきました。長すぎるロード時間をいかに短くするかではなく、ユーザーが冒険のヒントを得られる学びの時間に変えるという発想をしたように、私たちのアイデアは制約を受け入れることから始まります。

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そして、受け入れた制約をアイデアで埋めようと考えると、ユーザーにとって一番大事なものは何かが見えてきます。それは時としてARらしさとは逆向するものかもしれませんが、ユーザーが喜んでくれて、ARがよりフレンドリーなものになることが今一番必要だと考えています。

制約を受け入れて、ユーザー中心に作られたARサービスのUXは意外とシンプルなものかもしれません。

エンタメコンテンツだからできるアプローチも多分に含んでいますが、 デベロッパー全体でスマホARのUIUX問題に取り組み、1日でも早くユーザーに豊かなAR体験を届けたいと願っております。

 

  

余談ですが、先日USAではゴースト&ガンというARアプリが一部で流行ってたという話が耳に入ってきましたが、これは自分の周りに出てくるゴーストを撃ち落とすというまさに身体感覚だけにフォーカスしたARゲームアプリです。

ゴースト&ガン

ゴースト&ガン

  • Turbo Chilli Pty Ltd
  • ゲーム
  • 無料

開発者から見ると決してARとは言いにくいこのゲームでも、ユーザーからすると新しい遊びとして可能性を感じるものであったに違いありません。